子役育成型オーディションでも話題のミュージカル、「ビリー・エリオット」を観てきました。一度目は旦那と。二度目は感動の投稿をFacebookに投稿したところ、食いついてきた友人数人で。
 
カーテンコールはもちろん、劇中も、手がちぎれるくらい拍手しました。
これは子役の少年少女たちへのオーバーリアクションによる賛辞ではなく、心から感動してしまった私がどれだけ拍手をしても、し足り無かったというくらい、心動かされたからです。
 
既に公演が終了してしまったのですが、見逃した方はこちらでロンドン公演の日本語字幕版が楽しめますので、ぜひ!!私は自宅でこれを観ながら、また涙。
Billy Elliot: The Musical Live on iTunes
BillyElliotDVD

この作品は、映画「リトルダンサー」を原作に、大御大エルトン・ジョンが書き下ろした曲によってミュージカル化されたものです。原作である映画はスティーブン・ダルドリー(ブロードウェイなどの舞台作品やテレビドラマの製作および演出を手がけた大御所)による、初の長編映画作品だったこともあり、既に舞台っぽい演出が多く施された作品でした。
 
まずは簡単なあらすじを
1984年から1985年にかけてサッチャー政権が打ち出した「炭鉱閉鎖政策」に対抗した大規模なストライキが起こったイギリス北部の炭鉱街が舞台。ストの中心人物である父&兄のもとで育つ11歳のビリー少年は、街の男達の従来の慣習に従ってボクシングを習っています。(ただあまり乗り気ではありません。)

ある日、ボクシングの稽古に遅刻したビリーは居残り、そのまま、ボクシングの後に実施されるバレエのレッスンに参加することになるのですが、そこでバレエに魅了されてしまいます。幼いうちに母親を亡くしたビリーにとって、バレエのウィルキンソン先生は母親の温かさも感じられる自分の唯一の理解者となっていきます。

ビリーの才能を認めてくれた先生はロイヤルバレエスクールの受験をすすめるものの、昔気質の男らしさ(このご時世男らしさってなんだろうという話なのですが)を大事とする父と兄は、バレエは女々しく、浮わついた人間のやるものであり、ストライキでみんなが戦っている時に何をバカなことを!と猛反対します。

バレエを続けたいビリーは隠れてウィルキンソン先生のレッスンを受け続け、その様子を知ったビリーの父は彼の才能と情熱を理解するのですが、長期間に渡るストライキのせいでバレエスクールの試験を受けに行く交通費すら出せません。ストライキ仲間からの期待や男のプライドも捨てて、父親はスト活動から離脱しようとします。ストライキの中心にいた親子の父親が裏切るわけですから、お兄ちゃんは激怒。そんな事情を知った仲間達の寄付によりビリーは試験を受けに行くことができます。そして暗い話しかない街の唯一の光になっていくわけですが、、、

さてビリーはスクールに受かるのか?そしてバレエダンサーになれるのか?
 
おすすめポイントは以下の4つ
  
1. 主役ビリーにかかり過ぎている重圧をはねのける子役の少年に感涙
この公演を実施するにあたり、大きな課題となるのが、子役の育成です。
主役のビリーはタップダンス、クラシックバレエ、アクロバット、そして歌唱、と多岐に渡る技術が求められるだけでなく、2時間半の公演で、ほぼ出ずっぱりなので、狂気的な体力とやりきり力が求められます。

バレエを続けられない怒りともどかしさを爆発させる「アングリー・ダンス」では4分弱の間、激しいタップを踊り続けますし、「エレクトリシティ」では2分半もの独唱のあと、そのまま3分以上のクラシックバレエのシーンに突入します。大きなステージにぽつんと一人のダンスで時間をもたせるシーンがひたすら続くという。体の小さい子役が舞台の大きさを感じないくらい、手足をしっかり伸ばしてそれをやり切っていることに息をする暇もありません。

最後は「子役」と呼んでしまうのも申し訳ない気持ちになるくらいのプロフェッショナルぶりに圧倒されます。

Electricity - Billy Elliot The Musical

 
2. ビリーの親友「マイケル」に注目
主演ビリーの大変さを「多岐にわたるダンス&歌唱技術×体力」だとすると、サブキャラでもある親友マイケルの子役のポイントは「生まれ持ってのキャラ」もしくは「憑依力」なのではないかなと。
 
マイケルは実は女装癖があります。大人達に反対されながらも、バレエを続けたい想いをビリーがマイケルに相談するシーンでは「え?男がバレエするなんておかしいと思われちゃうよ?!」と、女装をしながら答えるシーンは非常にコミカル。その後に続くマイケルが歌う「Expressing Yourself」(これがまた名曲中の名曲!)は「個性を大切に!自分に嘘をつかない!」という、このミュージカル全体の核心となるメッセージソング(和訳はこちら)であり、それを主演のビリーでなく、マイケルが歌うのです。この作品においてマイケルというのはただの脇役ではなく、かなり大事なキャラクターになります。「バレエを止められて悩むビリー」と対照的に「堂々と女装を楽しんでいるマイケル」。このマイケルは根アカで、なのに、どこか悟ったような、大きな問題を自分自身で消化しようとしている凄みが必要で、それは演技ではなく、生まれ持ったキャラクターでしか演じきれない難しい役どころなのです。ここに是非注目してほしいです。
「Expressing Yourself」を歌いきった後に、マイケルが暗転させるタイミングが私は大好き。

EXPRESSING YOURSELF - BILLY ELLIOT LIVE Elliott 


3. 演出
2017年の日本版「ビリー・エリオット」では「北九州弁」を話しており、これは、なるほど!と膝を打つ演出でした。炭鉱夫が多く住んだエリアで、方言が強い場所ですよね。実際に本場ロンドン公演の「ビリー・エリオット」でも、舞台となった北の訛りが強くて、蛮カラなセリフ回しの演出が特徴的です。
 
あと印象的な演出は「Solidarity」で、「警官vs炭鉱夫のストメンバーが争う様子」と「バレエの練習をする少女たち」を対照的に描いてるシーン。それは「戦争と平和」であり、「過去と未来」でもあります。

Solidarity (Billy Elliot)


4. ホリプロの(堀義貴社長の)執念がすごい
「リトルダンサー」がエルトン・ジョンの楽曲によってミュージカル化されるらしいぞ、という情報を聞きつけたホリプロの堀義貴社長(当時は社長ではなかったですが)が、「日本で絶対やりたい!」と名乗りをあげるのですが、そもそもロンドンでのミュージカル公演が開始されていないタイミングで挙手しているのが面白いポイントです(笑)。「まだ本場の公演も始まってないのに、日本での展開なんて考えてないよ」と当時は一蹴されるわけですが、「もしやるってなったら、絶対声かけてよ?!絶対交渉させてよ?!」と堀社長は強く連絡をしたそうです。実際のロンドン公演が開幕し、堀社長は現地に飛びます。観た感想は「やばい、無理だ、できない。。。」だったそうです。「俺たちがやってきたのは制作者ごっこだ!こんなスゴいことできない!どこであんな子どもを探せばいいんだ!無理無理!」と、怒りがこみ上げてきて、全てのやる気をなくした、というくらいの衝撃だったそうです。

その後、様々な日本の劇団が名乗りをあげ、ホリプロは候補から外れるところまでいくのですが、その時「これはホリプロという会社が乗り越えるべき壁である」と奮起し、結果、勝ちとります。上演まで漕ぎ付けるその漢気は、ビリーの夢を最後は理解し、応援し、覚悟を決めて新しい時代を引導するビリーのお父さんの姿と重なる部分もあり、とても勇気付けられます。
 
最後に
私の母は教員なのですが、どうしても観て欲しくて、無理やり観に行かせたら、結果、教員仲間を連れて、その後何度も観に行ったようです。それは「子どもの頑張ってる姿に心打たれる作品だから」ではありません。
 
ビリー・エリオットという作品は、いわば「神視点」で観ることができる作品です。
私たちは未来にいるからこそ、サッチャーによる「労働組合の社会主義が、企業家精神を破壊する」という考察に基づいた、「赤字の炭鉱閉鎖」という政策に一定の理解ができますが、時代背景を考えると当時、その強引さはただの悪であり、もちろん「バレエを踊る男性」への理解度も低い。作品中はレガシーの象徴として描かれているビリーの父、兄が、当時、そのエリアにおいては「常識人」だったはずです。
 
翻って、今現代において、10年後、20年後を読むのは当時よりも困難な環境の中で、「〜べき」「〜らしさ」「常識とは」「正しい教養」というものを、どうやって定義して教えることができるだろうか。とふと思ってしまうのです。それよりも「好きなものに没頭できる力」、「夢中力」を養うことがどれだけ尊く、子どもたちの未来を切り拓いてくれるものかを感じさせてくれる。
 
そんな悩める大人たちに是非観ていただきたい作品です。