ソワレを待ちわびて

金曜日の夜、いつもより少しだけドレスアップして舞台を観に行く何とも言えないワクワクが大好きです。時々トニー賞作品を観劇にブロードウェイに行くので、現地のレポートもします。ミュージカル、歌舞伎、舞台を中心につれづれと。

タグ:BenjPasek

大ヒットブロードウェイミュージカル「ディア エヴァン ハンセン」の脚本を書き下ろしたスティーブン・レヴェンソンも、作品と同じく、2017年トニー賞ミュージカル脚本賞を受賞しました。
Stevenlevenson

このミュージカルはとにかく発想というか設定が面白いと思ったので、どういうところから着想を得たのか気になって調べてみたところ、彼が設定から決めて書き下ろした作品というわけではないようです。
 
作曲家のPasek&PaulのBenj Pasekが高校生時代、同級生をドラッグの摂取過多によって亡くし、その時の残された生徒たちの喪失感や自身が感じたことを作品に落とし込んでいったものだそうです。
 
Benjがこれを劇作品に仕上げていく過程で、劇作家が必要だということになり、多数の作品をみた中で、スティーブン・レヴェンソンにオファーをし、本づくりが始まります。それは並大抵の作業ではなく、登場キャラクターやエピソードなど、それこそ命を削るように約5年もの間、様々なアイデアを出しては消し、出しては消し、この作品が仕上がっていきます。
 
人の心を動かすものは「原体験」に基づいたものだ、という話はよく聞きますが、この作品もそうだったんだなと改めて思いました。
 
Steven Levensonはミュージカル作品としては、これが処女作となるわけで、一部ではFirst Luckだと揶揄する人もいますが、元々大ヒットドラマ、「Masters of SEX」の脚本も手がけた作家さんです。
 
ロングランヒットとなったミュージカル作品The Book of MORMONも、風刺アニメSouth Parkを作ったトレイ・パーカー(Trey Parker)&マット・ストーン(Matthew Stone)によって作られたように、ブロードウェイに別のエンタメ業界の新たな血を入れることで、化学反応が起こるという事例がまた一つ増えましたね。(余談ですが、Dear Evan Hansenで一躍スターになった主演男優ベン・プラットも過去、The Book of MORMONに出演しています。)
SouthPark

とにかく作品は面白いので、ぜひ観ていただきたいです。
簡単なあらすじや感想はこちらから。
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Pasek and Paulが作詞作曲し、ベン・プラットが歌い上げるDear Evan Hansenの「Waving Through a Window」を私なりに和訳しました。wavingthroughawiondow

作中におけるこの曲の素晴らしさはこちらの記事にまとめました。
 
この曲は節回しがクセになるメロディラインで、節と節の間で、前節の最後の音に次節の頭の主語をぶっこんでいることで「寂しい俺」がより強調される曲調になっています。
 
最後の盛り上がりで、
When you're falling in a forest and there's nobody around
Do you ever really crash, or even make a sound 
を4回繰り返すところがあるのですが、その自問自答っぷりを和訳するのは苦労しました(笑)一番の聴きどころなので、ぜひ!

"Waving Through a Window" from the DEAR EVAN HANSEN Original Broadway Cast Recording

 
I've learned to slam on the brake
僕はブレーキを踏むことを学んだんだ
Before I even turn the key, Before I make the mistake
鍵を回す前に、失敗する前に、
Before I lead with the worst of me
そして最悪な自分になる前に
Give them no reason to stare
じろじろ見られる理由をつくるな
No slipping up if you slip away
試合にでなければ、負けることもない
So I got nothing to share
だから伝えることもなければ、
No, I got nothing to say
言いたいこともない
 
Step out, step out of the sun
太陽から逃げろ
If you keep getting burned
焼き尽くされるぐらいなら
Step out, step out of the sun
太陽から逃げるんだ
Because you've learned, because you've learned
もう十分に学んだだろ?そう、君はもう学んでるはずなんだ
 
On the outside, always looking in
いつも外から眺めてた
Will I ever be more than I've always been?
いつかこの状態を打破できるのか?って。
'Cause I'm tap, tap, tapping on the glass
だってガラスを叩き続けてるんだから
I'm waving through a window
窓越しに手をふり続けて
I try to speak, but nobody can hear
話しかけてみるけど、誰にも聞こえていない
So I wait around for an answer to appear
だから答えがでるまで、無意味に周りをうろついてみる
While I'm watch, watch, watching people pass
行き交う人をただ見ながら
I'm waving through a window, oh
窓越しに手をふり続ける
Can anybody see, is anybody waving back at me?
誰かいませんか?誰も手を振り返してくれないの?
We start with stars in our eyes
みんな生まれた時は目を輝かせて
We start believing that we belong
居場所があると信じてるんだ
But every sun doesn't rise
でも太陽は不平等に光を照らして
And no one tells you where you went wrong
どこで間違ったのか教えてくれる人は誰もいない
Step out, step out of the sun
太陽から逃げろ
If you keep getting burned
焼き尽くされるぐらいなら
Step out, step out of the sun
太陽から逃げるんだ
Because you've learned, because you've learned
もう十分に学んだだろ?そう、君はもう学んでるはずなんだ
 
On the outside, always looking in
いつも外から眺めてた
Will I ever be more than I've always been?
いつかこの状態を打破できるのか?って。
'Cause I'm tap, tap, tapping on the glass
だってガラスを叩き続けてるんだから
Waving through a window
窓越しに手をふり続けて
I try to speak, but nobody can hear
話しかけてみるけど、誰にも聞こえていない
So I wait around for an answer to appear
だから答えがでるまで、無意味に周りをうろついてみる
While I'm watch, watch, watching people pass
行き交う人をただ見ながら
Waving through a window, oh
窓越しに手をふり続ける
Can anybody see, is anybody waving?
誰かいませんか?手を振り返してよ?
 
When you're falling in a forest and there's nobody around
木から落ちた時、周りに誰もいない
Do you ever really crash, or even make a sound?
それは本当に落ちたと言えるのか?その時音は鳴ったと言えるのか?
When you're falling in a forest and there's nobody around
君は木から落ちたんだ、でもやっぱり周りに誰もいなかったらさ、
Do you ever really crash, or even make a sound?
それって落ちたって言えないよね?音が鳴ったと言えないよね?
When you're falling in a forest and there's nobody around
木から落ちても、誰も気づける状況にないってことはさ、
Do you ever really crash, or even make a sound?
それは落ちてないってことじゃない?音も鳴ってないんじゃない?
When you're falling in a forest and there's nobody around
誰もいない場所で木から落ちて音が鳴ったって君が主張したところで、
Do you ever really crash, or even make a sound?
それは落ちたことにもならないし、音は鳴ってないってことになるんだよ?
Did I even make a sound?
僕は本当に音をたてたのか?
Did I even make a sound?
僕は本当に音をたてているのか?
It's like I never made a sound
多分、僕は今まで一度だって音をたてていないんだろう
Will I ever make a sound?
いつかちゃんと音をたてることができるんだろうか?
 
On the outside, always looking in
いつも外からただ眺めていた
Will I ever be more than I've always been?
いつかこの状況を打破できるんだろうか?って。
'Cause I'm tap, tap, tapping on the glass
だってずっとガラスを叩いてるんだよ?
Waving through a window
ガラス越しに手をふり続けて、
I try to speak, but nobody can hear
ガラス越しに話しかけてみても、誰にも聞こえない
So I wait around for an answer to appear
答えがでるまで、中に入ることはなく、外をうろうろしてるだけ
While I'm watch, watch, watching people pass
行き交う人をただ眺めているだけ
Waving through a window, oh
窓越しに手をふる
Can anybody see, is anybody waving back at me?
誰も気づいてくれないの?誰もふり返してくれないの?
Is anybody waving?
誰かいないの?
Waving, waving...
そう、僕はただ手をふり続ける、ふり続けている。
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やっと観てきました、Dear Evan Hansen。
DearEvanHansenPlaybill
 
結論から言うと最高です。 
 
「SNSが題材の一つとして使われていること」と「若年層に人気」という二つの事実に相関性をもたせて紹介しているメディアが多いのですが、この作品の根本にあるのは「孤独とは何か」という、年齢性別を超えた壮大な問いであり、社会と繋がっている限り、誰もがもつモヤモヤした痛みや鬱屈した感情をえぐりだした作品なので、全ての人が自分の環境に置き換えて感じとれる何かがあるはずです。ブロードウェイまで行かれたら、是非観ていただきたいです。
 
おすすめポイントは以下の5つ
 
1. 設定がおもしろい
(なるべくネタバレしないように書いてます)
コミュニケーションが苦手で社会不安を抱える17歳の男子高校生、エヴァンが主人公。セラピーの一環で自分宛てに書いた手紙を学校で印刷していると、同じ高校に通う登校拒否生徒のコナー(こちらはドラッグ常習者)が自分のところまで持ってきてくれます。彼はプリンターの近くにいたんでしょうね。そこでちょっとした行き違いが起こり、コナーを怒らせてしまい、彼は帰ってしまいます。後日、コナーの両親が「エヴァンに会いたい」と学校を訪れ、コナーが自殺をしてしまったことをエヴァンに伝えます。「どうして僕に会いに来たのか」と聞くと、「息子のポケットにあなた宛ての手紙が入っていたのよ」と。あの日、怒って帰ってしまったコナーは、そのまま手紙を持って帰ってしまっていたのです。ドラッグに手を染め、両親ともろくに口を聞かない息子にも友達がいたと信じ、そして死んだ後でも息子のことを知りたいと願う、そんな両親に対し、本当のことを言いだせず、悲しんでいる両親を喜ばせたいという気持ちで、「コナーはこんないいやつだった、あんなとこにも行ったし、こんな話で盛り上がったんだ」などと嘘の思い出を作り上げてしまいます。
 
その日を境に、コナーの両親はエヴァンのことを息子の代わりのように可愛がってくれます。母子家庭で寂しく育ったエヴァンはこの幸せに段々執着心を感じ始めます。そして嘘を重ねるたびに、「自殺をしてしまった青年を支えた唯一の友人」として、雪だるま式にSNSで美談として伝えられ、大きな社会現象になっていきます。引くに引けない状況になってしまったエヴァン。嘘はばれるのか?そしてエヴァンはどうやってこの危機を乗り越えるのか?
 
自分宛ての手紙がきっかけなので、タイトルが「Dear Evan Hansen」なのですが、この物語は「自分を見つめ直すために書いた自分宛ての手紙」を発端に、「嘘の自分を作り上げていって、本当の自分に向き合えなくなり、そこから抜け出せなくなっていく」そんな話です。

2. 今、一番、旬なブロードウェイミュージカル
2017年のトニー賞は完全に「Dear Evan Hansen」と主演の「Ben Platt」のものだったと言っても過言ではありません。ただ評価されているのがミュージカル界だけじゃないというのがポイント。
 
かつて1990年代のニューヨーク・イーストヴィレッジを舞台に、エイズ、ドラッグ、貧困、LGBTなど、若者の社会問題を描いた「RENT」がそうであったように、普段ブロードウェイで舞台を観る機会のなかったSNS世代の若者たちの間で大きなムーブメントになっており、チケット価格が高騰しているにも関わらず、劇場は若者で溢れかえっていました。
 
Youtubeには大量の二次創作物が生まれており、ブロードウェイの間口を広げる作品となっています。

Sincerely, Me | Dear Evan Hansen | Animatic/Storyboard


sincerely me (but it's trash)


主演のベン・プラットはトニー賞を受賞した時、こんなコメントを残しました。
"Don’t waste any time trying to be anyone but yourself, because the things that make you strange are the things that make you powerful."

「自分以外の何者かになろうとすることに時間を費やさないで。あなたを人と違った、一風変わった人にしているその要素は、あなたを強くしてくれるものだから。」
 
3. 孤独とは何か、ということを改めて考えさせてくれる
この作品は「SNS世代の若者」だけではなく、全ての世代を超えて「孤独とは何か?」を考えるきっかけを与えてくれます。
 
人が孤独を感じる瞬間は、人里離れた山奥で一人で暮らすことではなく、「認めてもらえない」「会話が成り立たない」「もっている前提情報が違う」など、人とのコミュニケーションの中で生まれるものなんだ、ということを自分の人生の様々なシーンを思い返しながら確認できる、そんな作品です。
 
私はこの作品を通して「自分が過去に感じた孤独」と「自分は気づかなかったけど、今思うとあの人に感じさせていただろう孤独」の両方を反芻しました。
 
4. Pasek and Paul の紡ぐ楽曲
Pasek and Paulと言われてもピンとこない方もいらっしゃるかと思いますが、2016年に公開されて、大ヒットを記録したミュージカル風映画「ラ・ラ・ランド」の「City of Stars」でオスカー&ゴールデングローブ賞を、そしてこの「Dear Evan Hansen」でトニー賞のベストスコア賞を受賞するという、偉業を成しました。また2019年公開予定のガイ・リッチーによる実写版「アラジン」の作曲チームにこの二人は参加が決定しています。この二人についてはこちらに詳細を書きました。
 
エヴァンハンセンの楽曲はポップでキャッチーなメロディが多く、前述の通り、若者たちは二次作品を作りまくっています。一般的なミュージカル曲はストーリーが前提となって、その作品の中で活きてくるものが多いのですが、彼らの楽曲はそれ単体でもポップソングとして成立しているのが面白いところ。個人的には全楽曲をご紹介したいところですが、その中でもどれかと言われれば、この作品の背骨となる曲、「Waving Through a Window」です。和訳もしてみましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。
 
「Dear Evan Hansen」は、哲学者ジョージ・バークレーの研究にある「木が森に落ちて、誰もその音を聞くことができないなら、その音は存在したと言えるのか?」という観察や知覚に関する質問を提起する哲学的思考実験をもとに、人間の孤独についての考察が紡がれています。主役のエヴァン・ハンセンがギプスで登場する視認できる事象(木から落ちて骨折したんだけど、クラスメイトも母親も無反応)と、声をあげて自分が主張したところで誰も意に介さないだろうという諦めにも似た心象で生活していること、をリンクさせて表現しているのです。

5. ブロードウェイのニュースター「ベン・プラット」
この人なしではこの作品は語れません。2017年トニー賞で主演男優賞を獲得したニュースター、ベン・プラット。新星のように現れたように見える彼ですが、実はキャリアは長く、9歳の時に初舞台を踏んでいます。そしてThe Book of Mormonでエルダー・カニングハム役を演じていますが、その時はそこまで話題の俳優さんにはなってませんでしたね。
 
ベン・プラットがもつ演技と歌唱を両輪で動かせる才能が、この作品で化学反応を起こして、花開いたといった感じでしょうか。
彼についてもこの記事で詳しくまとめておきました。

最後に
この作品は脚本、設定、楽曲、演者、全てが素晴らしいので、ブロードウェイに足を運ぶ価値のある作品です。主役のエヴァン・ハンセンだけでなく、彼をシングルマザーで育て、彼に孤独を感じさせている母親、自殺したコナーの両親、彼を取り囲むリア充を気取っている友人たち、出演する全ての役柄がそれぞれ孤独を感じていて、孤独の連鎖とそれぞれの向き合い方があり、観客全員が置かれている環境や経験によって、感じ取る部分が違うだろうこの作品を観て、いろんな方と語り合いたいです。
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2017年、映画界とミュージカル界を席巻した二人といえば、このベンジ・パセック&ジャスティン・ポール。Pasek and Paulとしてセットアップして語られるこの二人。
BenjPasek_JustinPaul_tonyawards
二人はミシガン大学の新入生時分から一緒に音楽制作活動を始め、ともに2016年にミュージカル演劇プログラムを卒業しています。名門として多くの卒業生をブロードウェイに輩出していますが、この二人もそうだったんですねー。通常、パセックが歌詞を執筆し、ポールが作曲することが多いようですが、彼らは合作としてクレジットを表記する方針をとっています。
  
2016年に公開されて、大ヒットを記録したミュージカル風映画「ラ・ラ・ランド」の「City of Stars」でオスカー&ゴールデングローブ賞を受賞し、


その勢いのまま、Dear Evan Hansen でトニー賞ベストスコア賞を受賞するという快挙!
プロモーションでよく使われるこの「Waving Through a Window」はもちろん、


とにかくDear Evan Hansenの劇中曲は、全てが名曲。アルバム買って、私、相当何回も聴いちゃってます。

 
ご本人が歌っているムービーはこちら!う、うまい。

そして!2017年7月にディズニーがD23 EXPOで正式に発表した、2019年公開予定のガイ・リッチーによる実写版「アラジン」の作曲チームにこの二人もアサインされてます。
 
ジーニー役にウィル・スミスがキャスティングされたことも話題ですよね!公開が楽しみです!
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aladdin_WillSmith

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